
設計者のための旋削加工
シャフトやフランジのように,大部分が丸い形状を占め,精度が要求される部品は,一般的に旋盤で旋削加工されます。旋盤だけで,ベアリングの軸やボスとなる高精度の円筒面,止め輪の溝,テーパ面,ねじなどを加工することができます。
一方,キー溝,主軸と同軸にないねじ穴やキリ穴,切り欠き加工などは通常の旋盤では加工できません。こういった複雑な加工にはターニングセンタや複合加工機を用いるか,旋盤で加工される前か後に別の加工機で加工を行います。
塑性加工などの別の加工方法と比較して,少量生産の場合は旋削加工が最も経済的となる可能性が高くなります。大量生産品でも精度が要求される場合は旋削加工を行うことが多くあります。
旋盤だけで加工できる部品
旋削加工できる材料
加工できる材料は,炭素鋼や合金鋼などの鋼,ステンレス鋼,鋳鉄,アルミ合金などの非鉄金属,チタンなどの難削材,焼入鋼などの高硬度材料,樹脂などの非金属などです。
加工性の良し悪しに違いはあるものの,最適な工具を選定すればほとんどの材料を加工することができます。加工性が良い材料では,寸法精度,表面性状(表面粗さやうねり),加工速度などが向上します。
加工しやすい材料の代表例は調質(焼入れ後に高温で焼戻しをする熱処理)した機械構造用鋼です。鋼であっても,硬度が低すぎ粘りがあると切粉が切断されないため加工しにくく,逆に硬度が高すぎると工具の摩耗が大きくなり,工具交換の頻度が高くなることから経済性が落ちます。
旋削加工の概要
よく用いられる旋盤の種類として,作業者がハンドルなどでアナログ操作をして加工をする普通旋盤,NCプログラムを入力することで自動で加工をするNC旋盤,回転工具が使用できたり工具の自動交換ができるターニングセンタなどが挙げられます。
日本など現場作業者の時間単価の高い国では,一品物やごく少量の生産品は普通旋盤,少量?大量生産品はNC旋盤,複雑な加工はターニングセンタが使われることが一般的です。
主軸が複数あるNC旋盤やワークを自動着脱するロボットを導入すると,さらに大量生産に対応することができます。最適な旋盤を選ぶことで,一品物から大量生産品まで,あるいは単純な形状から複雑な形状まで,様々な生産量や形状に対して経済的に対応することができます。
旋削加工とは,ワーク(工作物)をチャックで掴み,ワークを回転させ,バイト(工具,刃物)をワークに押し付けながら少しずつ動かしワーク表面を切削することです。
したがって旋盤は,ワークを回転させる主軸,その主軸台,機械本体で案内面を持つベッド,工作物を支えたりドリルを保持する心押台,ベッド上を往復してバイトを送り運動させる往復台,その送り機構などからなります。
普通旋盤
バイトはワークを切削する刃部と柄にあたるシャンクからなります。一昔前は刃とシャンクが一体に成形されたむくバイトがよく用いられていましたが,今日では刃部をねじで取り付けるスローアウェイバイトがより一般的です。
スローアウェイバイトは柄部をホルダ,刃部をスローアウェイチップやインサートと呼びます。
スローアウェイバイト
バイトの形状は,片刃バイトや突切りバイトがよく使われます。片刃バイトは外径部,内径部,端面など,ほとんどの場所を加工することができ,最もよく使われます。
突切りバイトは片刃バイトで加工できないような溝部や突切りなどに用いられます。ねじ切りバイトを使うことで,主軸と同軸であればおねじやめねじを加工することもできます。
片刃バイトと突切りバイト
旋削加工の部品を設計するにあたり,工具のカタログを読み,加工中の刃物の動きをイメージすることは大変有用です。
例えば隅RはチップのRと同一にすると,加工が楽になります。逆にチップと異なるRを指示すると,バイトを動かして隅部を創成するため,精度が良くなります。また複雑な形状に加工したいときは,対応できる工具がありそうか事前に確認しましょう。
チャックは三つ爪スクロールチャックと呼ばれる,ワークの外形部を3つの爪で掴むものが最も一般的です。チャッキングによりわずかにワークが弾性変形した状態で加工されるため,例えば薄肉円筒の内径面を加工した場合は,内径が三角おにぎり形状に仕上がり,真円度,円筒度が悪くなります。
チャッキングの影響が考えられる部品を精度良く仕上げる場合は,コレットチャックなど別のチャック方法を検討するか,研削加工を検討します。これは設計部門だけでは決められないので,製造・生産技術部門や,調達・購買部門,加工業者など次工程にあたる関連部門とよく相談してください。
細長い形状の軸などの加工は,片側をチャックするだけでは,チャックから遠い先端部分を加工する際に弾性変形するため,精度が悪くなります。このような形状は心押台を用いて先端を固定すると精度が良くなります。細長い形状のものを設計するときはセンタ穴を指示しましょう。
加工手順は一般的に,荒加工と仕上げ加工に分けられます。
まず荒加工として,材料表面の黒皮や鍛造肌,鋳肌を除去し,精度良くチャックできる面を作ります。続いて,10分の1mm程度の仕上げしろを残して,大まかな形に加工します。
最後に仕上げ加工として,目的の寸法公差,幾何公差,表面性状になるように注意深く加工を行います。図面指示が普通公差であったり表面粗さの指示が粗い場合は,加工速度を上げたり,荒加工で目的の寸法に仕上げて仕上げ加工を省いたりすることができます。こうした理由で,必要十分な精度を要求することが経済的な加工につながるのです。
旋削加工の精度
旋削加工で要求できる公差は,JIS B 0405(長さと角度の普通公差)とJIS B 0419(幾何公差の普通公差)が参考になります。
旋盤自体の精度や加工する材料などにもよりますが,中級程度であれば前述のように仕上げ加工を省くなど経済的に加工できると考えてよいでしょう。
一方,注意深く仕上げ加工すれば,普通公差の10分の1やそれ以下の公差内に仕上げることもできます。はめあい公差で言うとIT7ないしIT6級程度まで旋削加工でも指示することができると思われます。
また同軸度については,チャッキングしたまま連続で加工できる面同士は通常はかなり精度が良く,ミクロンオーダーの仕上がりになります。一方,掴み変えが発生した面同士はチャッキングの精度に依存します。円筒度や端面振れなどは旋盤自体の剛性や精度などに依存しますが,NCプラグラムで補正することも可能です。
表面粗さについては,Ra 6.3程度であれば経済的に加工できるでしょう。
一方図面指示できる精度の限界はRa 0.8程度と思われます。旋削加工で創成される表面粗さの理論値は下式で計算できます。実際は理論的な表面粗さよりも少し荒くなりますが,良い目安になります。
表面粗さの要求が現実的か計算しましょう。また本式より,表面粗さを良くしようとすると,送りを小さくする必要があり,加工時間が長くなるトレードオフが見て取れます。
\( Rz = (\frac{f^{2}} {8 re})\times 1000 \)
\( Rz \):理論仕上げ面粗さ(μm)
\( f \):1回転あたりの送り(mm)
\( re \):チップのコーナ半径(mm)
これまで寸法公差と表面性状の精度の具体例を示しましたが,実際は材料や形状などの加工性の良し悪しにより,精度を達成する難易度は大きく変わります。厳しい公差を要求する場合は,事前に製造・生産技術部門や,調達・購買部門,加工業者など次工程の関連部門とよく相談してください。旋削加工で精度の達成が難しい場合は,研削加工など別の加工方法を検討します。
この記事を書いた専門家
Rev. 1
2020-01-28
嶌中デザインアンドコンサルティング
嶌中祐仁
旋削加工が選択される設計
参考文献
JIS B 0105:2012 工作機械 名称に関する用語
JIS B 0106:2016 工作機械 部品及び工作方法 用語
JIS B 0405:1991 普通公差 第 1 部:個々に公差の指示がない長さ寸法及び角度寸法に対する公差
JIS B 0712:1969 切削仕上げしろ
大西清,JISにもとづく機械設計製図便覧,オーム社
職業能力開発総合大学校基盤整備センター編,二級技能士コース 機械加工科 教科書,職業訓練教材研究会