機械や構造物、ロボット等に生じる力の計算がマスターできる!実践的な演習問題を通して力学的な挙動を解析する力が身につく。やさしいイラストを用いた解説で、難しい概念を体系的に学べる!
摩擦力と摩擦係数
摩擦とは物体の動きに逆らうように働く力のことです。
床の上に置いてある荷物を図に示す方向に押すと、荷物と床の接触面に 摩擦力(摩擦抵抗) が発生します。摩擦力は荷物を押した方向と反対方向に働きます。
この摩擦力を利用した代表的な機械製品は、自動車のブレーキやクラッチです。これらの工業製品は、止まっている物体を動かしたり、逆に動いている物体を止めたりする機械要素です。
このように摩擦によってさまざまな機能を実現することができます。
また、部品間で焼きつきを起こすなど、摩擦が問題で機能や性能を損なうこともあり、摩擦は機械設計で重要な要素となります。
摩擦力には
・静止している物体を動かそうとしたときに発生する 「静止摩擦力」
・動いている物体に発生する 「動摩擦力」
・転がっている物体に発生する 「ころがり摩擦力」
があります。
それぞれについて以下に説明します。
静止摩擦力
静止している物体にある一定以上の大きさの力を加えると、物体は移動を開始します。移動を開始する直前の摩擦力を 「最大静止摩擦力」といいます。
荷物は、自分の重みによって床を押す力 (W) と反対向きに垂直抗力(N)を物体が受けます。なぜなら、力は押す側だけでなく、反対方向にも働くとされている「作用反作用の法則」によるからです。
このとき、最大静止動摩擦力の大きさは次の式で求めることができます。
F'=μN
F' :最大静止摩擦力
μ :静止摩擦係数
N :垂直抗力
この式より、最大静止摩擦力は垂直抗力に比例し、接触面の面積とは無関係であることがわかります。
動摩擦力
物体を移動させると、それを妨げるように摩擦力が発生します。このように物体の移動中に発生する摩擦力のことを 「動摩擦力」 といいます。
最大静止摩擦力と同様に、作用反作用の法則により、荷物の重みによって押す力 (W) と反対向きに垂直抗力(N)を物体が受けます。
このとき、動摩擦力の大きさは次の式で求めることができます。
F'=μ'N
F' :動摩擦力
μ' :動摩擦係数
N :垂直抗力
この式から、動摩擦は最大静止摩擦力と同様に垂直抗力に比例していることがわかります。また、移動速度とは無関係であることも理解できます。
ころがり摩擦力
ボールや円柱のような回転体のような形状がころがる場合に発生する摩擦力を「ころがり摩擦力」といいます。この摩擦力は静止摩擦力や動摩擦力を比較すると遥かに小さな摩擦力となります。
従って、摩擦が発生するところ、「ころがり摩擦」 を使うことで、なめらかな動作を実現させることができます。ボールベアリングがその代表的な部品です。
ボールベアリングを軸受と軸の間に取り付けることで、「動摩擦力」を「ころがり摩擦力」に変換することができ、摩擦力が低減され、機械性能を向上させることができます。
静止摩擦係数と動摩擦係数の関係
摩擦係数は摩擦力を接触面に作用する垂直抗力で割った無次元量(μ=F/N)で求めることができ、摩擦試験機で測定が可能です。
一般的には動摩擦係数より静止摩擦係数が大きくなります。
静止摩擦係数 > 動摩擦係数
床におかれた荷物を押していくと、ある一定の荷重以下では荷物は動きませんが、静止摩擦力の限界を超えると荷物は動き出します。荷物が動き出した時点から動摩擦力に切り替わるため、荷物が軽くなります。図で示すとちょうど下図のようになります。
摩擦係数は近似的に成り立つものとして取り扱わており、実際に発生する摩擦力は様々な要因により異なってきます。
<摩擦係数に影響を及ぼすもの>
・接触面の材質
・油などの潤滑剤の有無
・表面性状(表面粗さ)
例えば、物体の表面には小さな凹凸があり、機械加工の種類や方法によってその状態は変化します。凹凸の度合いを規定するのが表面粗さであり、詳しくは「表面粗さ」で解説しています。
摩擦係数一覧
以下に鉄と各種純物質との摩擦係数を示します。
<鉄と各種純物質との摩擦係数>
ベリリウム | 0.43 |
パラジウム | 0.65 |
炭素 | 0.15 |
銀 | 0.32 |
マグネシウム | 0.34 |
カドミウム | 0.67 |
アルミニウム | 0.82 |
インジウム | 0.32 |
ケイ素 | 0.58 |
スズ | 0.29 |
カルシウム | 0.67 |
アンチモン | 0.26 |
チタン | 0.59 |
テルル | 0.35 |
クロム | 0.53 |
バリウム | 0.89 |
マンガン | 0.57 |
セリウム | 0.50 |
鉄 | 0.52 |
タンタル | 0.58 |
コバルト | 0.46 |
タングステン | 0.47 |
ニッケル | 0.58 |
イリジウム | 0.51 |
銅 | 0.46 |
白金 | 0.56 |
亜鉛 | 0.50 |
金 | 0.54 |
ゲルマニウム | 0.66 |
タリウム | 0.68 |
セレン | 0.43 |
鉛 | 0.52 |
ジルコニウム | 0.55 |
ビスマス | 0.40 |
コロンビウム | 0.57 |
トリウム | 0.82 |
モリブデン | 0.47 |
ウラン | 0.50 |
ロジウム | 0.54 |
アームコ鉄球面(半径3.2mm)/平面,荷重2.7N,滑り速度0.05mm/s
出典:機械工学便覧
<各種非金属材料の摩擦係数>
高分子量高密度ポリエチレン | 0.06 〜 0.3 |
充てん材入りナイロンとアセタール | 0.15 〜 0.4 |
充てん材入り強化フェノール積層材 | 0.1 〜 0.4 |
充てん材入りPTFE | 0.05 〜 0.32 |
エポキシで結合した青銅/鉛入りPTFE | 0.08 〜 0.3 |
充てん材入りポリイミド | 0.15 〜 0.5 |
充てん材入りオキシベンゾイルポリマー | 0.15 〜 0.5 |
青銅ーグラファイト複合材 | 0.15 〜 0.3 |
青銅強化PTFE | 0.04 〜 0.25 |
PTFE繊維基材料 | 0.04 〜 0.25 |
カーボンーグラファイト | 0.15 〜 0.4 |
エレクトログラファイト | 0.15 〜 0.35 |
Niーグラファイト、鉄ーグラファイト | 0.2 〜 0.4 |
TaーMoーMoS2複合材 | 0.1 〜 0.2 |
コバルトで結合したWC | 0.25 〜 0.4 |
セラミックで結合したCaF2 | 0.2 〜 0.5 |
出典:機械工学便覧
上記より、全ての摩擦係数は 1より小さな値であることが分かります。
これは物体を吊るした時にかかる荷重より、床に置いて引っ張った時のほうが一般的に小さな荷重で動かすことができることを示しています。
例えば、1kgの荷物を1kgの力で引っ張ったときの摩擦係数が 1 となります。
つまり、摩擦係数とは 「滑りにくさを表した係数」 であり、値が大きい程、滑りにくいこと を表しています。
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