プラスチックの応用
各種のプラスチック素材の特長を活かした製品を作るためにはさらに工夫が必要です。そのため次のような応用製品が考案され、実用化されています。
発泡材
防音のためには、振動を伝えない仕組みが必要です。発泡ポリウレタンなどの発泡材は、内部に含まれる気泡によって音の伝達を抑えます。ポリウレタンフォームには軟質と硬質があり、防音材としては軟質ポリウレタンフォームが優れています。
発泡ポリウレタンはシート状に加工可能なので、防音効果を持たない壁でも軟質ポリウレタンフォームの防音シートを貼ることによって、防音効果を持つ壁に変えられます。
磁性プラスチック
磁性を持たないプラスチックに磁性を持たせるには、成形時に磁性粉を混ぜて強い磁場をかけながら成形します。単に磁性粉を混ぜて成形しただけでは磁軸の向き(N 極・S 極の向く方向)がバラバラで、磁性が生じません。
磁力を持たせるためには各磁性粉の磁軸の向きを揃える必要があります。このため、電磁石を設置して磁場の中で成形を行います。射出成形の場合、金型を大きな電磁石の中に置いて成形します。成形中のプラスチックが電磁石の磁場に入ることにより、原料に混入している磁性粉の磁軸が同じ方向に揃います。このまま冷却して固めるとすべての磁性粉が同じ方向を向いた強い磁力を持つ磁性プラスチックになります。
磁性プラスチックは自動車に付ける初心者マークなどに使われています。
生体適合プラスチック
一般的なプラスチックチューブを血管の代わりにしようとしても、異物であるプラスチックの壁に血液が触れると凝血して血栓ができてしまいます。そこで、チューブの内側を血管上皮細胞で覆うと、血液が血管と同じものと認識するため、血栓の生成を抑止することができます。
また、素材そのものが生体にとってなじみやすいプラスチックも開発されています。プラスチックの中でも特に生体適合性が高いものにシリコン樹脂があります。シリコン樹脂は耐久性に優れ酸素の透過性が高いので、人体に使う素材としては最適で、人工臓器や人工関節などとして医療分野で幅広く使われています。硬度もさまざまなものがあり、柔らかいものは豊胸手術にも利用されています。
生分解性プラスチック
プラスチックの欠点の一つは廃棄されても自然分解されず残ってしまうことです。製品としての長所である耐久性がここでは逆に欠点となってしまうのです。この問題を解決するために、微生物によって分解される生分解性を持ったプラスチックが開発されました。
プラスチックに生分解性を持たせるには、主鎖の一部に炭素の代わりに酸素を入れることが必要です。微生物はこの酸素の部分を切断できるので、プラスチックは分解されて最終的に水と二酸化炭素になります。
石油を原料とする代わりに植物などの生物資源から作られたプラスチックは生分解性を持ちます。その一つポリ乳酸は耐熱性を持たせることにより実用化が進んでいます。将来的にPETの代替素材となることが期待されています。
高吸水性プラスチック
ナイロンなどの例外を除いて、多くのプラスチックは吸水性を持ちません。吸水性は分子の中に親水基があるかどうかで決まります。主な親水基には、カルボキシル基(−COOH)やアミド基(−NHCO−)があります。ナイロンはポリアミドの一種であり、アミド基を持っています。
特に高い吸水性を持つものに高吸水性高分子があります。これらは親水基を持った分子鎖が架橋して三次元的なつながり方をした構造をしています。親水基は水に触れるとイオン化し、イオン同士が反発して空洞ができるため、水分子を空洞の内部に取り込みます。高吸水性高分子は紙オムツや生理用品に使われています。布製のものに比べて格段に吸水性が高い素材です。高吸水性高分子としてよく使われているものにポリアクリル酸ナトリウムがあります。水を吸った高吸水性高分子は外部から力をかけても水が漏れることなく保持します。
通気性プラスチック
最初に実用化されたコンタクトレンズはポリメタクリル酸メチル製で、ハードコンタクトレンズでした。ハードコンタクトレンズの問題点は目の角膜は酸素が必要なのに、ハードコンタクトレンズは酸素を通さないので長時間着用できないことでした。この問題を解決したのがソフトコンタクトレンズです。ポリメタクリル酸メチルに親水基であるヒドロキシル基を結合させた素材で製造すると、取り込んだ水分を通して酸素を透過させるため、長時間の着用が可能になりました。
抗菌プラスチック
銀製の食器は光沢だけでなく抗菌性が高いので最高級とされています。プラスチックに抗菌剤を添加することで作られた抗菌性プラスチックは、近年の清潔志向の高まりとともに需要が増加しています。抗菌性プラスチックの食器は、銀のような高い抗菌性を持ちながら安価に購入できるという長所があります。
抗菌性金属には銀、銅、亜鉛の3種類が使われています。これらの抗菌性金属をケイ酸系担体やリン酸系担体の上に載せて抗菌剤として添加します。銀をベースにした銀系抗菌剤は抗菌性が高く、多様な種類の雑菌に対して抗菌効果を発揮します。銀が抗菌性を持つのは、銀イオンが細菌の生体活動を阻害するからです。また、銀イオンにより生成された活性酸素が細菌を攻撃し、高い抗菌性を持つからです。
ラミネートフィルム
1種類のフィルムだけでは素材の持つ性質に限界があるので、ラミネート技術で複数のフィルムを重ね合わせます。重ね合わせる素材はプラスチック同士のほかに、紙やアルミニウムのフィルムの場合があります。
すでに固化したフィルムに他のフィルムを押し出して付加する方法をラミネート法といいます。レトルト食品を封入しているレトルトパウチにラミネートフィルムが使われています。
ラミネートを使った包装は細菌を通さないので抗菌性を有するほかに、光や酸素も遮断することができます。酸素遮断力に優れたポリビニルアルコールのフィルムをポリエチレンでサンドイッチすると、酸素を通さず丈夫なフィルムができます。ポリエチレンだけだといくら厚くしても酸素を通してしまいます。光を通さないアルミ箔などを内側にして外側をポリエチレンでサンドイッチにすると遮光性のフィルムができます。
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